ホーム / 恋愛 / 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない / ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』19

共有

―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』19

last update 最終更新日: 2025-01-20 17:55:19

冷静に考えればリュウジが私なんかを好きにならない。世間でも知らない人が少ない、COLORのメンバーなのだ。

マッサージチェアーに座り目を閉じる。

私がここでくつろいでいる時に、リュウジは私をここで何度も抱いたよね。

リュウジに触られると全身熱くなって……震えてしまうほど、気持ちよかった。

はあ、いちいち思い出してしまう。

この家には思い出が多い。引っ越しでもしないと忘れられないかもしれないな。

会社も、もう……行けないかも。

そのまま眠ってしまった。

朝になり、寒気で目が覚めた。

マッサージチェアーの上で薄着のまま、濡れた髪の毛のまま寝ていたのだから、風邪を引いても仕方がない。

社会人としてありえない失態を犯してしまった。

体温計……どこだっけ。

立ち上がると天井がグラグラ動いて見える。お酒のせいもありそうだけど、熱もありそうだ。

ベッドのある部屋に置かれているタンスの一番上の引き出しに体温計があった。

脇に挟んでベッドに倒れる。

「だるいよ……」

一人だと心細くなる。

泣きそうだ。

いい歳して情けないな。

これからは一人で生きていかなきゃいけないのに。

ふっとリビングを見るとビールの缶が転がっているけれど、片付ける気にもならない。

ピピッ。

体温計が鳴って見てみると三八度七部あった。これじゃあ、休むしかないか……。

会社に電話を入れる。

「あ、すみません。芽衣子です」

『美羽です。どうしました?』

「熱を出してしまって」

『大丈夫ですか? 無理しないで休んでください。何かやることあれば言ってください』

「ありがとう。急ぐものはないから……ごめんね。失礼します」

電話を切って、ベッドに横になった。

まだ寒気が抜けなくてざわざわする。

休んだの……いつぶりだっけなぁ……。ぼんやりと考える。

そうだ、リュウジが熱を出した時だ。

あの時……朝、電話が来たんだっけ。

『会社休んで看病して』って。私は自分が熱を出したと嘘をついて、言われた通り会社を休んでリュウジの家に行ったんだ。会社を休んだのには罪悪感があったけれど、リュウジのことが心配でたまらなかった。

薬やスポーツドリンクなどを買い込んで急いでリュウジの家に行った。

ロックされたチャプター
GoodNovel で続きを読む
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

関連チャプター

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』20

    家に行くと意外と元気だったリュウジ。熱はあったけど『芽衣子の作ったご飯が食べたい』と言われてうどんを煮た。ぺろっと食べてしまったリュウジに薬を飲ませて、ベッドで寝てもらったのだけど、顔を真っ赤にして『芽衣子』って甘えてきて、手を握っていた。安心したような表情がたまらなく愛おしかった。熱があるくせにキスしてってせがまれて、手を引いてキスをされた。すぐに舌が絡みあうキスになり、不覚にも胸が疼いてしまった私。それを悟ったかのようににっこりしたリュウジは、私をベッドに引きずり込んだ。リュウジの体は熱くなっていて、抱きしめられた私は溶けてしまいそうになっていた。スッキリしたリュウジはすぐに熱が下がってさ。私がうつされたパターンだった。次の日は熱冷ましを飲んで出社した。リュウジはさすがに反省したようで、平謝りだった。夜は珍しくリュウジがご飯を作ってくれて……美味しかったなぁ。そして、とても優しかった。漫画のような本当の話。考えてみれば、世間で人気があるアイドルと付き合うなんて、漫画のようなことだよね。きっと……長い夢を見ていたんだ。結婚してくれないって怒ってしまったけれど、贅沢になり過ぎたのだ。私なんかと長い間一緒にいてくれたことに感謝しなきゃ……。ありがとう、リュウジ。布団を被って震えながら涙を零した。

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』21

    そのまま眠ってしまった私は一度夕方に目を覚ましたが、薬を飲んでいなかったせいで体は熱いまま。息も苦しかった。だけど、着替えをして病院に行く気にもなれない。頭が割れそうなくらい……痛い。我慢しつつも、更に眠り続けると、次に目を覚ました時は真っ暗だった。ぼんやりする意識の中に飛び込んできたのは、チャイムの音。動きたくないから無視することを決めて目を閉じるが、しつこい。何度も、何度も鳴らされる。ベッドから降りると、ふらふらして歩きづらく、壁を伝って行く。インターホンの画面を見ると、リュウジが映し出されていた。誰かに見られてはまずいと思って慌ててオートロックを解除する。「……………これも夢なのかな?」混乱しつつ玄関までなんとか行って鍵を開けると、息が苦しくなってその場に座り込んでしまった。ヤバイ……死にそう。気持ち悪いし頭は割れるほど、痛い。横になりたくて玄関でそのまま倒れた。再びチャイムが鳴る。乱暴にドアが開く。「芽衣子!」リュウジの声に聞こえたけれど……幻聴だろう。私がリュウジを好きすぎるから――。

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』22

    ずいぶんと楽になった――目をそっと開くと真っ白な世界が飛び込んできた。まさか本当にあのまま死んでしまった……とか。最後にリュウジに会いたかったな……。ぎょっとなって、横を見ると点滴に繋がれていた。ああ、病院? よかった。生きてるみたい。どうやってここまで来たのだろうか。考えるけれど頭が痛くてうまく思考回路が動かない。個室のようだけど……。スライド式のドアが開いた。近づいてくる人の顔を見つめる。「芽衣子っ、起きた!」リュウジが浮腫んだ顔で笑って私を覗きこんでいる。やっぱり夢?「調子どう?」「…………」「芽衣子、まだ具合悪いかな……?」眉間に皺を寄せて悲しそうな顔をするリュウジを見て、夢じゃないと悟る。昨晩、リュウジが家に来てくれたことを思い出した。どうして家に訪ねてきたのだろう。家に置いていった物を取りに来たのだろうか。この前片付けをしていた時にどうしようかと困っていた。でも、捨てるわけにも行かず……。「大丈夫。まだ処分してないから、心配しないで」「は?」「落ち着いたら、リュウジの家に送ろうと思ってたから」「何の話?」噛み合わない話にリュウジは困惑している。それよりも、こんな公の場にいるのは危険だ。一刻も早く帰さなければ……。「バレないように、早く帰りなよ」「…………芽衣子」リュウジはそっと私の頬に触れた。その手はすごく冷たくて気持ちがいい。「まだ熱いね」「うん……」「二、三日入院だってさ。無理してたんだな……」リュウジは帰ろうとしないで椅子に座った。「入院?」「辛かったら連絡くれたらよかったのに。それとも、そんなに俺のこと嫌いなのかな」自嘲気味に笑ったリュウジは、私に布団をかけ直してくれた。「まずは眠って。早く治そう」「…………」「あのね、俺。大きな仕事が決まったんだ」嬉しそうな顔で報告してくれるリュウジ。「なに?」「◯◯スタジオの映画の声優さん。主人公なんだ。来年は忙しくなるなー」「え! すごいじゃない。おめでとう」お祝いしなきゃねと言いかけて口を噤む。そんな立場じゃないから。「退院したら話したいことがあるから」なんだろう。新しい恋人のことだろうか。「会社に連絡しなきゃ」「俺がしておいた」「え? そんなことしたら、勘違いされるじゃない。会社に復帰したら何て説明すればいいの

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』23

    「仕事があるから行くけど、また空き時間に来るからね、芽衣子」すっと立ち上がったリュウジ。「もう。いいよ」ポツリとつぶやとリュウジは無表情で見つめてきた。「なにが?」「来なくていい。リュウジが来ると目立つし週刊誌に撮られるよ」「もう、撮られたけど。近いうちに載るんじゃない」なぜに、そんなに堂々としているのだろう。「何か食べたいものあれば持ってくるから、メール届くようにしてね」「リュウジ」「ん?」「結婚したいって言ってごめんね」「……謝るようなことじゃないよ」「幸せになってね」「いろいろ言い返したいところだけど、時間がないから行くから。俺は芽衣子と別れたつもりはないからね。じゃあ、行ってくるね」リュウジは、部屋を出て行った。きょとんとする私。今の話の流れからすると……付き合ってるみたいな口ぶりだ。面倒をみてくれたし、優しいけれど。宝石店で女性といるところも目撃したのだから、流されてはいけない。リュウジは優しいから私を放っておけないのだ。ナースが入ってきた。「ご気分はいかがですか?」「かなりいです」体温計を渡される。脈拍を調べて点滴チェックをしてくれた。「顔色もいいですね」「ありがとうございます……」にっこり微笑んでくれるナースの笑顔に安心して、癒される私。そこにドクターが入ってくる。かなりイケメンで若いのに胸には副医院長と書かれていた。「おはようございます。主治医の高瀬です」「……おはようございます」「昨晩はかなり高熱だったため入院していただきました」そのタイミングで体温計が鳴った。熱は平熱に下がっていた。「食事はできそうですか?」「はい」「それであれば、明日に退院しても問題ないので、今日一日は安静にしていてください」「わかりました」ニヤリと笑い出すイメケンドクターさん。「な、なんでしょうか?」「ずっと心配して付き添っていましたよ。素敵な彼氏さんですね」「はい?」

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』24

    「COLORの……黒柳さんですよね」「……いえ、私は彼の事務所の人間でして……そういう関係ではありません」イケメンなのにずかずかと聞いてくるドクターさん。変な人。「お大事に。何かあれば遠慮なく言ってくださいね」出て行ったドクターとナース。私は頭を抱えたい気分になる。何もやることがないと色んなことを考えてしまうのだ。――もう、撮られたけど。近いうちに載るんじゃないリュウジの言葉を思い出す。どうしよう。大事な我が社のアーティストにスキャンダルを作らせてしまうなんて。リュウジの人気がガタ落ちになったら……。せっかく決まった大きな仕事が駄目になって、会社にすごい損害賠償を払うことになるかもしれない。ああ、恐ろしい。どうしたらいいのだろうか。真剣に、不安になる。誰かに相談したいけど……心を開いて言えるような人はいない。困ったなと思っているとドアが開いた。入ってきたのはお母さんだった。「芽衣子、大丈夫なの?」「うん」誰から聞いたのだろう。お母さんは私の顔を見て安心しているようだった。「あんたね、付き合ってるなら言えばいいのに」「誰と?」「黒柳さんと」サーっと血の気が引いていく。もう、ワイドショーで流れてしまったのだろうか。「どうしてそれを知ってるの?」「だって電話くれたの黒柳さんよ。挨拶遅れてごめんなさいって」「え……」リュウジは一体……何を考えているのだろう。親に連絡して挨拶するなんて、どういう気持ちなのかな。期待してもいいのかな……。リュウジ。早く会って話がしたい。話ってなんなのよ。

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』25

    リュウジside芽衣子を病院へタクシーで連れて行き、朝になると社長から電話が鳴った。人が少ない階段で電話を折り返す。『リュウジ。朝一で会社来なさい』「……えっと。なにかやらかしましたか?」『自分が一番わかってるでしょ? 目立つ行動をして』「…………はぁ。了解です」電話を切って壁に背をつけた。撮られちゃったかな。病室に行くと、芽衣子は体調がだいぶよくなったようで、安心した。見届けてから事務所に直行する。マネージャーが事務所で待っていた。「おはよー」「呑気すぎますよ……。撮られましたよ。どうしましょう」「べつに……焦ることないでしょ?」クスッと笑った俺の態度がイラついたのかマネージャーは、眉毛をピクピク動かし鼻息を荒くした。社長室に行く。午後からの仕事だから時間はたっぷりある。ノックして入ると大澤社長が「座りなさい」と言った。二人きりの社長室には嫌な空気が流れている。座るとテーブルに置かれたのは数枚の写真だった。俺と芽衣子がタクシーに乗り込んでいるところと、病院に到着したところだ。「明後日発売のものに載せるそうよ。これは、リュウジで間違いないわね」「……間違いないですねぇ」「一緒にいる女性は誰?」何年も誰にも言ってなかったから少し抵抗がある。ドキドキしながら名前を告げた。「……芽衣子」「芽衣子って、芽衣子?」こくりと頷いた俺。社長は意外そうな顔をしていた。「いつから?」「五年前から」「ずいぶんと黙ってたのね。芽衣子とはどうするつもりなの?」「大樹の結婚が落ち着いたら俺もって思ってるけど……芽衣子次第かな」「ちゃんと報告しなさいって言ったでしょ?」「……すみません」

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』26

    「大人なんだから恋愛は自由だけど、対処方法……作戦を練る必要があるのよ」大澤社長は眉間に皺を寄せながら言う長。言っていることが正論すぎて何も言い返せなくなった。黙り込んだ俺に社長は深い溜息をついた。「大樹は十一月三日に入籍。リュウジはどうしたい?」どうしたいと聞かれても芽衣子は俺を許してくれるかわからない。合コン男ともうすでにいい関係かもしれないし。爪を噛む。困ってしまうとついついやってしまう癖なのだ。はっとして、手を膝に置いた。「まだ……プロポーズをしてないし。ちょっと喧嘩中で……芽衣子はどう思っているかわからないけど」「あんたねぇ」「……来年。来年……結婚したい」「そう」実をいうと結婚なんてまだまだ先のことだと思っていた。一番、実感が湧いていないのは俺だ。――来なくていい。リュウジが来ると目立つし週刊誌に撮られるよ。病院からの帰り間際、そんなことを言われてしまった。俺は、芽衣子にとって俺は迷惑な存在になりたくなかった。芸能界の仕事をしている俺と交際していることを知られるせいで、平凡な生活を壊したくなかった。冷やかされる芽衣子が可愛そうだと思ったから……。「大樹はライブで交際宣言したけど……リュウジはどうしようかしらね」「うん。しなくていいかな……べつに」「あんたね、人気商売なのよ。しっかりとしてよ」社長は俺の性格を知り尽くしているから、バンバンキツイことを言う。チョットしたことではへこたれない。腕を組んでいる社長を見つめる。「うん…………とりあえず、隠さない方向でいきたい。そして、目立つような会見とかはしたくないかな……」「仕方がない子ね。での、子供だったのに大人になったのね、リュウジも。まずは、しっかりと芽衣子さんと話し合いなさい」呆れながらだったけど、社長は認めてくれた。一つ条件が出され、雑誌に掲載された日に、俺はSNSでつぶやきで報告することになった。

    最終更新日 : 2025-01-20
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』27

    芽衣子は回復が早く次の日には、退院した。変な病気じゃなくてよかったと心から思う。芽衣子に何かあったら、生きていけない。仕事を終えて芽衣子の家にウマそうなものを買い込んだ。急いで芽衣子のマンションに向かった。チャイムを鳴らすと、すぐにオートロックを解除してくれた。ドアをすり抜けてエレベーターに乗った。明日は雑誌に載るはず。芽衣子も社長から連絡をもらっているだろう。俺からもちゃんと説明しなければいけない。エレベーターが開き降りて芽衣子の部屋に向かう。変な緊張感が襲ってきた。話の流れからプロポーズをすることになるだろう。指輪も持ってきたし。部屋の前についてチャイムを押すとすぐにドアが開いた。「入って」「うん」すぐに中に入れてくれたことに安堵するが、芽衣子は落ち着かない様子だった。リビングへ行くと芽衣子はキッチンでお茶を準備してくれる。俺はお気に入りの定位置のソファーに座った。「体調大丈夫?」お茶を出してくれた芽衣子に問いかける。「うん、大丈夫……。それより」言いかけて、芽衣子は悲しそうな表情を見せた。「社長から電話……もらった。明日は会社休みなさいって言われたの」落胆の声で教えてくれる。雑誌に載ると会社も少し忙しくなるだろう。社長は気を使ってくれたに違いない。芽衣子は俺から距離をとってカーペットに座った。奇しくも今日は、俺と芽衣子の付き合い出した記念日だったりする。芽衣子は覚えているだろうか。「休んだらいいんじゃない? ゆっくりすれば?」「どうしてそんなに呑気なの? 私のせいでリュウジが仕事を失うかもしれないんだよ」今にも泣きそうな顔で訴えかけてくるが、俺は薄っすらと微笑んだ。多少のイメージダウンは覚悟できている。「あ、芽衣子。美味しいものいっぱい買ってきたから食べようよ」「リュウジ。今は大事な時でしょ? 大きな仕事も決まったのに……SNSで報告って……ファンは納得してくれるの?」「うん」「そもそも、私とリュウジはもう終わったでしょ?」不安そうな声で探ってくる芽衣子。芽衣子は今でも俺のことが好きだろうか。ソファーの背もたれに体重を預けて芽衣子を見つめる。「芽衣子は俺のこと……好き?」「……えっ」隙を突かれたような表情をして、目をパチパチとさせている。何度もする瞬き。芽衣子の気持ちが知りたい。「芽衣

    最終更新日 : 2025-01-20

最新チャプター

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』86

    「赤坂さんのことが好きでも……両親の言うことを聞かなきゃって思って」「ってかさ、なんで早く言わなかったんだ?」苛立った口調に怖気づきそうだった。「考えて悩んで……私もそう思ったから。それに、これ以上迷惑をかけちゃいけないって思ったの」「迷惑だと? ふざけんじゃねぇぞ」乱暴に私を抱きしめた。赤坂さんの胸に閉じ込められる。かなり早い心臓の音が聞こえてきた。「俺のこと信じろって」「赤坂さん。ごめんね」「バカ」涙があふれ出し、私は赤坂さんにしがみついた。赤坂さんはもっと強く私を抱き止めてくれる。「でも、好きな気持ちには勝てなかったの」「………」体を起こしてキスをされた。すごく優しいキスに胸が疼く。私のボブに手を差し込んで熱いキスに変わっていく。舌が絡み合い、濡れた音が耳に届いた。唇が離れると赤坂さんは今までに見たことない瞳をしている。「久実、愛してる」「……私も、赤坂さんのことが好き」「俺もだ」「今まで本当にごめんなさい」「大好きっ、赤坂さん、大好き」「うん。俺も」私も赤坂さんのために自分のできる限り尽くしたいと思った。守ってもらうだけじゃなくて、守ってあげたい。頭を撫でられて心地よくなってくる。「両親に認めてもらえるように……頑張るから」赤坂さんはつぶやいた。だけど、すごく力強い言葉に聞こえた。「近いうちに会いに行きたい」「うん………」「やっぱりさ、思いをちゃんと伝えて理解してもらうしかないから」「そうだね……」「俺はどんなことがあっても久実を離さないから。覚えてろよ」頼もしい赤坂さんに一生着いて行く。私は赤坂さんしか、いないから。きっと、大丈夫。絶対に幸せになれると思う。私は赤坂さんのことが愛しくてたまらなくて、自分から愛を込めてキスをした。エンド

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』85

    そして、四日になった。前日から緊張していてあまり眠れなかった。化粧をして髪の毛をブローした。リビングにはお母さんがいて、テレビを見ていた。「友達と会ってくるね」「気をつけてね」「行ってきます」家を出ると、まだ午前の空気は冷たくて、身震いした。手に息を吹きかけて温める。電車に向かって歩く途中も緊張していた。ちゃんと、思いを伝えることができるといいな……。赤坂さんに恋していると気がついたのはいつだったんだろう。かなり長い間好きだから、好きでいることがスタンダードになっている。できることなら、これから一生……赤坂さんの隣にいたい。マンションに到着し、チャイムを押すとオートロックが開いた。深呼吸して中へ入った。エレベーターが速いスピードで上がっていく。ドアの前に立つといつも以上に激しく心臓が動いていた。チャイムを押すと、ドアが開いた。「おう」「お邪魔します」赤坂さんはパーカーにジーンズのラフな格好をしているが、今日も最高にかっこいい。私は水色のセーターとグレーの短めのスカート。ソファーに座ると温かい紅茶を出してくれて隣にどかっと座った。足はだいぶ楽になったらしくほぼ普通に過ごせているようだ。「久実が会いたいなんて珍しいな」「うん……。話したいことがあって」すぐに本題に入ると、空気が変わった。赤坂さんに緊張が走っている感じだ。「ふーん。なに」赤坂さんのほうに体ごと向いて目をじっと見つめる。何から言えばいいのか緊張していると、赤坂さんはくすっと笑う。「ったく、何?」緊張をほぐそうとしてくれるところも優しい。赤坂さんは人に気を使う人。「私……、赤坂さんのことが好きなんです」少し早口で伝えた。赤坂さんは顔を赤くしているが、表情を変えない。「うん……。で?」「好きなんですけど、交際するのを断りました。その理由を話に来たんです」「……そう。どんな理由?」しっかり伝えなきゃ。息を吸って赤坂さんを見つめた。「両親に反対されています」「え、なんで?」「赤坂さんは恩人ですから……。 だから、対等じゃない……から……」頭の後ろに片手を置いて困惑した顔をしている。眉間にしわを寄せて唇をぎゅっと閉じていた。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』84

    年末になり、赤坂さんは仕事に復帰した。テレビで見ることが多くなり、お母さんと一緒に見ていると気まずい時もあった。四日に会う約束をしている。メールは毎日続けているが会えなくて寂しい。ただ年末年始向けの仕事が多い時期だから、応援しようと思っている。私も年末年始は休暇があり、仕事納めまで頑張った。そして、両親と平凡なお正月を迎えていた。こうして普通の時を過ごせることが幸せだと、噛み締めている。今こうしてここにいるのも赤坂さんと両親のおかげだ。心から感謝していた。『あけましておめでとうございます。四日、会えるのを楽しみにしています』赤坂さんへメールを送った。『あけおめ。今年もよろしくな。俺も会えるの楽しみ』両親が反対していることを伝えたら赤坂さんはどう思うだろう。不安だけど、しっかりと伝えなきゃいけないと思った。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』83

    「……美羽さん。ありがとうございます」「ううん」「私も赤坂さんを大事にしたい。ちゃんと話……してみます」「わかった」天使のような笑顔を注いでくれた。私も、やっと微笑むことができた。「あ、連絡先交換しておこうか」「はい! ぜひ、お願いします」連絡先を交換し終えると、楽しい話題に変わっていく。「そうだ。結婚パーティーしようかと大くんと話していてね。久実ちゃんもぜひ来てね」「はい」そこに大樹さんと赤坂さんが戻ってきた。「楽しそうだね」大樹さんが優しい声で言う。美羽さんは微笑んだ。本当にお似合いだ。「そろそろ帰るぞ久実」「うん」もう夕方になってしまい帰ることになった。「また遊びに来てもいいですか?」「ぜひ」赤坂さんが少し早めに出て、数分後、私もマンションを出た。赤坂さんとゆっくり話すのは次の機会になってしまうが、仕方がない。本当は今すぐにでも、赤坂さんに気持ちを伝えたかった。二日連続で家に帰らないと心配されてしまうだろう。電話で言うのも嫌だからまた会える日まで我慢しようと思う。私は、そのまま電車に向かって歩き出した。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』82

    急に私は胸のあたりが熱くなるのを感じた。「占いがすべてじゃないし、大事なのは二人の思い合う気持ちだけど。純愛って素敵だね」私が赤坂さんを思ってきた気持ちはまさに純粋な愛でしかない。「一般人と芸能人ってさ……色んな壁があって大変だし……悩むよね。経験者としてわかるよ」「…………」「でも、好きなら……諦めないでほしいの」好きなんて一言も言ってないのに、心を見透かされている気がした。涙がポロッと落ちる。自分の気持ちを聞いてほしくてつい言葉があふれてきた。「赤坂さんに好きって言ってもらったんですけど、お断りしたんです」「どうして……?」「心臓移植手術が必要になって、多額な金額が必要だったんです。赤坂さんが費用を負担してくれて私は助かることが出来ました。両親が……」言葉に詰まってしまう。だけれども、言葉を続けた。「対等な関係じゃないからって……。お父さんが、財力が無くてごめんと言うので……」「ご両親に反対されてるのね」深くうなずいて涙を拭いた。「私を育ててくれた両親を悲しませることができないと思いました。それに、健康じゃないので赤坂さんに迷惑をかけてしまうので」うつむいた私の背中を擦ってくれる美羽さん。「そっか……。でも、赤坂さんは、誰よりも久実ちゃんの体のことは理解した上で好きって言ってくれたんじゃないかな」「…………」「赤坂さんに反対されていることは言ったの?」「いえ……」「久実ちゃんも、赤坂さんを大事に思うなら。赤坂さんに本当のことを言うほうがいいよ。赤坂さんはきっと傷ついていると思う。好きな人に付き合えないって言われて落ち込んでるんじゃないかな」ちょっときついことを言われたと思った。だけど、正しいからこころにすぅっと入ってくる。美羽さんは言葉を続ける。「久実ちゃんがね、手術するために日本にいない時に……。さっきも言ったけど、私、大くんと喧嘩しちゃって赤坂さんに相談に乗ってもらったことがあったの。その時から、久実ちゃんのことを聞かせてもらっていたの。赤坂さんは心底久実ちゃんを好きなんだと思うよ」必死で私をつかまえてくれる。赤坂さんの気持ちだろう。痛いほどわかるのだ。なのに勇気がない。私は、意気地なしだ。でも、このままじゃいけないと思った。勇気を出さなければ前に進めないと心が定まった。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』81

    楽しく会話をしながら食事していた。食べ終えると、大樹さんは赤坂さんを連れて奥の部屋に行ってしまう。美羽さんが紅茶とクッキーを出してくれた。二人並んでソファーに座る。部屋にはゆったりとした音楽が流れていた。自然と気持ちがリラックスする。しばらく、他愛のない話をしていた。「赤ちゃんがいるの」お腹に手を添えて微笑んでいる美羽さん。まるで天使のようだ。「安定期になるまでまだ秘密にしてね」「はい……。あの、体調大丈夫ですか?」「うん。妊婦生活を楽しんでるの。過去にできた赤ちゃんが帰ってきた気がする」美羽さんは、過去の話をいろいろと聞かせてくれた。辛いことを乗り越えた二人だからこそ、今があるのだと思う。気さくで優しくてふんわりとしていて本当にいい人だ。紫藤さんは美羽さんを心から愛する理由がわかる気がする。私は心をすっかり開いていた。「赤坂さんのこと……好きじゃないの?」「え?」突然の質問に動揺しつつ、マグカップに口をつけた。「いい人だよね、赤坂さん。きついことも言うけど正しいから説得力もあるし」「……」「実は 夫と喧嘩したことがあってその時に説得してくれたのも 赤坂さんだったの」「 そうだったんですね」「二人は……記念日とかないの?」「記念日なんて、付き合ったりはしていないので」「はじめてあった日とか……。何年も前だから覚えてないよね」ごめんと言いながらくすっと笑う美羽さん。初めて赤坂さんに会った日のこと――。子どもだったのに鮮明に記憶が残っている。まさか、あの時は恋をしてしまうとは思わなかった。こんなにも、胸が苦しくなるほどに赤坂さんを愛している。「ねえ、果物言葉って、知ってる?」「くだものことば? 聞いたことないです……」「誕生花や花言葉みたいなものなの。果物言葉は、時期や外観のイメージ・味・性質をもとに作ったもので……。果物屋の仲間達が作ったんだって」「はぁ」美羽さんは突然何を言い出すのだろう。ぽかんとした表情を浮かべた。「あはは、ごめん。私フルーツメーカーで働いていたの。なにかあると果物言葉を見たりしてさ。基本は誕生日で見るんだろうけど……記念日とかで調べて見ると以外に面白いの」「そうなんですか……」「うん。大くんと付き合った日は十一月三日でね、誕生果は、りんご。相思相愛と書かれていて……。会わな

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』80

    タクシーで向かうことになったが、堂々と二人で行くことが出来ないので別々に行く。大スターであることを忘れそうになるが、こういう時は痛感する。二人で堂々と出掛けられないのだ。……切ないな……。美羽さんは大樹さんと結婚するまでどうしていたのだろう。途中で手ぶらなのは申し訳ないと思いタクシーを降りた。デパートでお菓子を買うと、すぐに違うタクシーを拾って向かった。教えられた住所にあったのは、大きくて立派なマンションだった。おそるおそるチャイムを押す。『はい。あ、久実ちゃん。どーぞ』美羽さんの声が聞こえるとオートロックが開いた。どのエレベーターで行けばいいか、入口の地図を確認する。最上階に住んでいる大樹さん夫妻。さすがだなーと感心してしまう。エレベーターは上がっていくのがとても早かった。降りるとすぐにドアがあって、開けて待っていたのは美羽さんだった。「いらっしゃい」微笑まれると、つられて笑ってしまう。「突然、お邪魔してすみません。これ……つまらないものですが」「気を使わないで。さぁどうぞ」中に入ると広いリビングが目に入った。窓が大きくて太陽の日差しが注がれている。赤坂さんはソファーに座っていて、大樹さんは私に気がつくと近づいてきた。「ようこそ」「お邪魔します」「これ、頂いちゃったの」美羽さんが大樹さんに言う。「ありがとう。気を使わないでいいのに」美羽さんと同じことを言われた。さすが夫婦だなって思う。赤坂さんも近づいてきた。「遅いから心配しただろーが」「赤坂さん。ごめんなさい」「一言言えばいいのに」一人で不安だったから、赤坂さんに会えて安心する。「さぁランチにしましょう」テーブルにはご馳走が並んでいた。促されて座る。私と赤坂さんは隣に座った。「いただきます」「口に合うといいけど」まずはパスタを食べてみた。トマトソースがとっても美味しい。「美味しいです。美羽さん料理上手なんですね」「とんでもない。大くんと出会った頃はカレーライスすら作れなかったんだよ」「そう。困った子だったんだ」見つめ合って微笑む二人がとても羨ましい。いいなぁ。私も赤坂さんとこうやって過ごせたら幸せだろうなぁ。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』79

    「妹が置いていった服ならあるけど。サイズ合うかな」「勝手に借りていいのかな?」「心配なら聞いてやるか」スマホで電話をはじめる。「あ、舞? 久実に服貸していい?」『えー! 家にいるの? 泊まったってことは、えーなに? 付き合ってるとか~?』ボリュームが大きくて話している内容が聞こえてしまう。「付き合ってくれないけど、まぁ……お友達以上だよ。じゃあな」お友達以上だなんて、わざとらしい口調で言った赤坂さんは、得意げな顔をしている。「……じゃあ、お借りするね」黒のニットワンピース。着てみるとスカートが短めだった。ひざ上丈はあまり着たことがないから恥ずかしい……。着替えている様子をソファーに座って見ている。「見ないで」「部屋、狭いから仕方がないだろう」「芸能人でお金もあるんだから引っ越ししたらいいじゃない」「結婚する時……だな」その言葉にドキッとしたが、平然を装った。私と……ということじゃない。一般的なことを言っているのだ。メイクを済ませると赤坂さんは立ち上がって近づいてくる。見下ろされると顔が熱くなった。「可愛い。またやりたくなる……」両頬を押さえつけたと思ったら、キスをされる。吸いつかれるような激しさ。顔が離れる。赤坂さんの唇に色がうつってしまった。「久実……愛してる」……ついつい私もって言いそうになった。「せっかく 口紅塗ったのに汚れちゃったじゃないですか」 私はティッシュで彼の唇を拭った。 すると 私の手首をつかんで動きを止めてまた さらに深くキスをしてきた。「……ちょっ……んっ」「久実、好きって言えよ」「……時間だから行かなきゃ」

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』78

    久実sideふんわりとした意識の中、目を覚ますとまだ朝方だった。今日は休みだからゆっくり眠っていたい。布団が気持ちよくてまどろんでいると、肌寒い気がした。裸のままで眠っている!そうだった……。また、赤坂さんに抱かれてしまったのだ。逃げればいいのに……逃げられなかった。私の中で赤坂さんを消そうと何度も思ったけど、そんなこと無理なのかもしれない。すやすや眠っている赤坂さんを見届けて、ベッドから抜けようとするとギュッとつかまれた。「どこ行くつもりだ」「帰る」「………もう少しだけ。いいだろ」あまりにも切ない声で言うから、抵抗できずに黙ってしまう。強引なことを言ったり、無理矢理色々したりするのに、どうして私は赤坂さんのことがこんなにも好きなのだろう……。もう少しだけ、赤坂さんの腕の中に黙って過ごすことにした。太陽がすっかり昇り切った頃、ふたたび目が覚めた。隣に赤坂さんはいない。どこに行ってしまったのだろう。自分のスマホを見るとお母さんから着信が入っていた。「……ああ、心配させちゃった……」メールを打つ。『友達と呑みに行くことになって、そのまま泊まっちゃった』メッセージを送っておいた。家に帰ったら何を言われるだろう……。恐ろしい。「おう、起きてたのか」赤坂さんはシャワーを浴びていたらしい。上半身裸でタオルを首にかけたスタイルでこちらに向かってきた。あれ……昨日は一人じゃ入れないって言ってたのに。なんだ、一人で入れるじゃない。強引というか、甘え上手というのか。私はついつい赤坂さんに流されてしまう。そんな赤坂さんのことが好きなのだけど、このままじゃいけないと反省した。「今日、休みだろ?」「……うん」「じゃあ、大樹の家行こう」「は?」唐突すぎる提案に驚いてしまう。「暇だったらおいでって連絡来たんだ。美羽ちゃんも久実に会いたがってるようだぞ」美羽さんの名前を出されたら断りづらくなる。優しい顔でおいでと言ってくれたからだ。「でも……服とかそのままだし……」「そこら辺で買ってくればいいだろ」「そんな無駄遣いだよ」まだベッドの上にいる私の隣に腰をかけた。そして自然と肩に手を回してくる。「ちょっと……近づかないで」「なんで?」答えに困ってうつむくと赤坂さんは立ち上がってタンスを開けた。

コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status